便利屋『九』の、ある種、愉快な日常。 |
「で、コレ何……? 地図みたいだけど……」 場所は変わって、『九』2階、休憩スペース。 ウチの頼れるお姉ちゃん・緋華は、お椀に氷水を入れた急ごしらえのプールに浸かって、それなりに回復して来たらしい。こういう時、小人サイズって便利だよなぁ。 「あのね、西の……ホラ、工場地帯あるでしょ? あの辺りのね、40年くらい前の地図……らしいよ?」 「40年前って……うっわ、俺らまだ生まれてもいねーじゃん。おやっさん猫だから判りにきぃけど、やっぱ歳喰ってんのなー」 「ちょっと、半裸は黙っててよ」 「そうよロン毛」 紅の発言と共に、すかさず追い打ちをかけるあたしとリリー。 ズーンと落ち込む紅を横目に、正体不明の満足感に満たされるあたしとリリー。紅はここ最近、本当にいじられキャラが板について来たなぁと思う。 「まぁ、気を取り直して……今回の依頼内容はね、」 + + + 「今日お願いしたいのはね……まぁ、平たく言えば、トレジャーハント……かしら?」 「トレジャーハント……宝探し、ですか?」 「そうそう、それよ~。この地図、見て頂けるかしら?」 ミス・グレイが広げた地図を見ると……どこだろう、ここ。どっかの森の中みたいだけど……。 上の隅に書いてある日付が、もう40年も昔のもので、紙もインクも古ぼけてる。色んな要素から鑑みて……これは、40年前のものに間違いないっ! どやぁっ!! 「子供の頃、ここに宝物を埋めたっていうのは覚えているんだけど……ここ、今は、工業団地になってしまっているみたいで、もう名残もないのよ。ここから宝物のある場所を見つけて欲しい、っていうのがわたくしの依頼よ。場所だけあたりを付けてくれたら、あとはわたくし達の方で掘らせて頂くわ」 宝物、かぁ……まぁ単純に考えて、子供の頃の思い出の品、とかだよね。 「判りましたっ! わたくし共にお任せ下さい、ボスが居なくっても確実に依頼を遂行してみせますっ!」 + + + 「……ということかな」 「つまり私は今回、その地図の情報と現在のその場所の情報を照合する機械でも作ればいいのかしら?」 「緋華はその何でも機械に繋げる癖やめようよ! でもお願いしまっす!!」 「じゃ、私はいつも通り情報収集ね。地図を見ると目印になるようなものがいくつかあったみたいだし、そこから当たって行くわ……まぁ、40年も前の大昔のことなんて、覚えてる人が居るか分かんないけどね」 「あたしとエリーと紅は、今回特に出来そうなことないし、情報収集手伝うよ。あたしと紅なら脚には自信あるし、エリーも涼しい図書館の中で調べ物する分には、事務所に居るよりラクでしょ?」 「……平気……」 エリーが、もう、大丈夫だから、と呟きながら首を振る。……って言っても、つい3日前に倒れた人だもんなぁ。ちょっと心許ないというか、信用ならないというかー……。 とりあえず今日の所は、あたしとエリーが図書館で40年前の地図を探す作業、リリーと紅が件の地区を工事した業者への問い合わせ、緋華はそれらの報告待ちをすることになった。 普段はこういう指示をボスが出したりしてくれているけど、う~ん、意外と自分達だけでも何とかなるもんだなぁ。あ、いや、ボスが要らないとかそういう意味で無くって、緋華って頼りになるなぁって意味で(それに職員同士で喧嘩した時、ボスが居ないとまとまらないから、困る)。 「じゃ、エリー、行こっか。この辺にでっかい図書館って、どこあったっけー?」 「……16番通り……」 「あぁ、あの通りね? まぁ……ナンバーズ・ストリートの2ケタ後半だけど、エリーちゃん居れば平気かぁ」 ちなみにこの事務所があるのは、大体8番通りの通ってる8番街辺り。ボスは本当はもっと奥でも良かったんだけど、それだと依頼が少なくなりそうだから安全なヒトケタ台まで来たんだって、緋華が言ってた。 「えっと、メモとペンとー……あっ、そーだ、飲み物も要るよね?」 「……」 「さっ、行くよエリー! 緋華、報告はいつもの通信機でやれば良い?」 「えぇ、構わないわよ。あと、昨日作ったクッキーあるから持って行きなさい。ただ、クッキー食べた手で本には触らないようにするのよ?」 「もーっ、分かってるーぅ!」 右手で台所の横にあったクッキーの袋を、左手でエリーの手首をつかんで階段を駆け降りる。エリーも成長したなぁ、昔は、ちょっと肩に手を置いただけで殺されそうになってたのに。 エリーは強い。ウチの従業員達を戦力表にしたら、間違いなく1位2位を争う(紅も相当強いけど、詰めが甘いし、いざって時に迷いが多すぎる)。 だからそんなエリーがここに来てばっかの時、あたし達は、コミュニケーションを取るにも命がけだったっけ……。 「スミマセーン、11番街外れにある工場地の昔の地図ってありませんかー?」 「昔ィ~? それっていつよ、嬢ちゃん?」 所変わって、図書館のカウンター前。地図探すなんて頭も体力も使うコト、一々生真面目にやってらんないから、ここはこの道のプロに任せる。 が、ここの司書、態度すっごい悪い……! しかも頭はスキンヘッドで刀傷や銃創が見え隠れ。5~6人は殺してる、ゴッドファーザーって感じ。 と、そこまで思って気付く。 『司書=真面目で温和な眼鏡』は、日本でのみの印象だ! 西の司書だもん、そりゃ、マシンガンいきなりブッ放してこないだけ全然温厚だよ! 館内禁煙守ってるし、超真面目だよ! 眼鏡の代わりのよーにでっかいグラサンかけてるコトくらい、ヨユーで許せるよ!! 「えっと、今から40年くらい前の、できれば一帯を見られるような……。あっ、それと、同じ縮尺の今の地図もあると嬉しいです! 同じくらいの範囲で!」 「ふぅん……自由研究かい? それとも、学校の宿題?」 「あっ、いえ、仕事で使うんですけど……判ります? 8番街の『九』って店なんですけど……」 「あぁ、あの『店長さん』の店な……。ってことは、嬢ちゃんが噂の異邦人か」 「あれっ、ご存知ですか?」 「まぁ、異邦人そのものがそんなに多いもんじゃないし、店長さんは変わり種集めてるコトで有名だしな……。そうか、店長さんの身内か……じゃ、ちょっとそこで待ってな。今地図持って来てやっから、欲しいページ決まったら言えや。奥に複写機があるから、使わせてやんよ」 「あっ、ありがとうございますっ!」 ごめんね司書さん、最初に態度悪いとか思っててごめんね司書さん! 日本みたいな表面だけ丁寧で中身の冷え切った司書共より、いくら5~6人殺してそうな外見とは言え、司書さんの方がずっと司書ポイント(略してSP)は高いよ! レッツ人情!! 「で、その代わりと言っちゃあなんだが……」 !? ま、まさか、良い人と思わせておいて裏があるパターンだったの、コレ!? 「向こうの娘さんが本をどうにかしないよう、見張っておいちゃあくれねーか……?」 「えっ? って、エリーイィィィィィィィッ! ダメ、本はそんな乱暴に扱っちゃ……ヒィィィィィィィ! 破ける! 千切れる! 背表紙が、ノンブルがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 今日の教訓。 エリーを大事なものがある場所で、1人にしちゃ、ダメ☆ ***しばらくお待ちください*** 「あっ、もしもし緋華? うん、一応手に入れたよ、地図2つ。でも、湖や沼の場所は載ってても、目印になってた木とかの位置までは流石に……。うん、うん……判った、次は、写真とかその辺から当たってってらいいのね? ……うん、りょーかい。がんばってねー、じゃーまたー」 ピッ、と電話……じゃなかった、通信機を切る。日本に居た頃は携帯があるのが普通だったけど、ここではそうでもないみたい(でも、一応固定電話は普通にあるらしい)。 緋華が作った通信機で、事務所を経由して通信してる……んだとか。一応、事務所を経由するより電波の幅は狭いけど、個々の個体同士での直接通信もできるみたい。盗聴防止だって、緋華は言ってた。 「えっとね、エリー。次は、森が映ってそうなものを調べるって。資料があれば、緋華の方でくっつけたりしてパノラマ立体地図を作ってくれるってさ。エリー、まだ大丈夫そう?」 頷くエリー。 ……仲間を疑うのは良くないことなんだけど、信じられん。とりあえず強制的にエリーに給水させて、少しクッキーをつまんで再調査をすることにしよう。 こうして夕暮れまで調査して、事務所に戻ったのはもうとっぷり日が暮れた頃。 薄暗い路地で何回か暴漢に絡まれかけたけど、エリーが腕を折ったりあたしが脚を折ったり2人で頭蓋骨陥没させたりして、ごくごく平和に事務所に戻れました☆ |