便利屋『九』の、ある種、愉快な日常。


「まぁ……みんなのお陰で、大体の地図は出来たわ。ありがとうね。あとは2つの地図を照らし合わせて、実際にその場所がまだ残っているかを確認すれば良いだけだから……私は寝るわ、お休み」

 緋華はまた徹夜したんだろう。以前に徹夜は小人の仕事だとかいう感じのことを言っていたけど、本当に緋華は良く徹夜をする。誰より仕事が早い癖に、誰より長く働いてるってコトは……ひょっとして、緋華の仕事量ってハンパない!?

 とにかく今日も、朝ごはんと昼ごはんはあたしが作る事になりそうだった。よし、面倒だから、朝はリリー、昼は紅に作ってもらう事にしよう。うん、今決めた。

「さぁて……じゃあ、緋華の作ったこの地図と縮尺合わせて……と。真結子、そっち持って……そうそう、そうよ。方位は……これで合ってるわね?」

「うーい、コレでいいと思うよーん」

 大きな地図を2つ、重ねるように置く。片方がトレーシングペーパーになってる辺り、緋華の気遣いは並みじゃない。流石、東商科事務員高等試験の帳簿試験と秘書試験合格してるワケじゃないね!(ちなみにこの東商科~っての、超マイナーな癖に超難易度高いことで有名。受けるだけならタダだからって、緋華が趣味で受けてる)。

 で、この上から更にトレペに写したミス・グレイの地図を重ねて……っと。

「……よし、建物の下敷きにはなってないみたいね。今日はここ行ってみて、掘り返されてないか、あるいは粘土やレンガで固められてないかだけでも確かめましょ」

「うん。あんまり深くないんなら、あたしが視てもいいしね」

 忘れられがちなあたしの技能には『透視』がある。あんまり強くは無いんだけど、壁を隔てた隣の隣の部屋くらいまでなら視えるから、子供が埋めた箱くらいなら見つけられるかも知れない。……場所さえ特定できれば。

「じゃ、あんまりゾロゾロ行くのもアレだし、私と真結子で行くから、紅は足にー……ってなると、エリアが1人で留守番になっちゃうわよね。しゃーない、真結子、アンタ地図くらい読めるわよね? 私とエリアで留守番してるから、とっとと行って帰ってらっしゃい」

「ふぇーい」

 ササッと準備を整えて、足早に事務所を出る。
 変化した後、空中でホバリングしている紅の背中に飛び乗って、いざ、出陣!

 + + +

「おぉーい、あったかー?」

「んー? 一応……ボンヤリとは。四角い、金属の……箱っぽい?」

 現場に到着したのが、まぁ、紅の速度で10分強くらいだったと思う。意外と近場。
 工場関係者に頼みこんで、ちょっと前にようやく通してもらった。西はなんていうか、日本と違って、企業の人でも大らかというか、大雑把な人が多い。仕事的には助かるし、個人的にもそういうのの方があたしは好き。

「じゃ、リリーに連絡するからなー? ……もしもし、リリー? 紅と真結子、ポイント確認したよ。掘っかえす許可も取ったから、出来れば今日中にクライアントに連絡つかないか? ……ああ、……ああ、頼む」

 プツッ、と通信の切れる音がした。

「……で、何て?」

「一応連絡入れてみるってさ。俺達はここで待機なー」

「りょっおかーぁい」

 軽く伸びて、空を見上げる。
 工場地帯って言っても、日本の街中なんかより、ずっと空が高くて広い。空も自然も、こっちの世界に来て始めて、こんなにキレーなものだったんだなぁって思った。

 故郷には、お母さんもお父さんも、お兄ちゃんも真之介も居る。友達だってたくさん居たし、彼氏……はまぁ居ないけど、憧れの先輩、くらいは居た。
 大好きなぬいぐるみも、良く読んだ本も、みんな向こうの世界に残ってる。この世界に1年半もこうして留まってるのも、元の世界に戻れる条件が揃うのをずっと待ってるから。

 でも……ボス、緋華、エリー、紅、リリー。この世界に来てから知り合った全ての人、馴染みの建物。そして何より、あたしのこの能力を隠さなくて良いこの世界……。

 正直、こっちの世界に残るって選択肢もアリなのかな……って、最近思う。
 勿論家族は大事だし、懐かしいものも沢山ある。でも、向こうの世界に戻ったって、毎日同じように学校に行って、毎日同じような話をして、卒業しても、同じ会社で働いて、憧れの先輩みたいに手の届かない人じゃない、もっと身近な人と結婚して、毎日家事をこなして……っていう、想像のつく人生を送るんだろう。

 それを思うと、この世界は魅力的だ。
 毎日、気心の知れた仲間とだべって、刺激的な事件が起こって、頼れてかわいい猫ボスに、何でも相談できるちっちゃい先輩に、手のかかる同僚が2人。露出狂……は、まぁいいや。

 15年間過ごした向こうの世界より、たった1年半過ごしたこの世界に愛着が湧いてしまうのは……あたしが薄情だからなんだろうか。

 とにかくあたしは、決めなきゃいけない。こっちの世界と向こうの世界、最後にどっちを選ぶのか。

「真結子、紅! 連れて来たわよー!」

「緋華、リリー、エリー! こっちこっちー!!」

 遠くで手を振る同僚達に手を振り返して、さっきの思考に終止符を打つ。
 後ろには、依頼人のミス・グレイも見えた。

 今は、考えないでおこう。
 すぐに考える時がやって来るんだろうけど……それでも今は、目の前のこのことだけを、考えていよう。


1 2 3 4

Return