虹と星の掛け橋


「……まぁ、そんな感じなワケでして……」

「おっふぅ……その年齢で余命10年て、中々にディープね……。でもこの世界って、魔法も科学もそれなりに発展してんでしょ? どうにかなんないの?」

「うん……これは病気とかの後天的なものと違って、先天的な『寿命』だから、魔法や医療じゃどうしてもね……。まぁ、死後ゾンビにとか、全身機械化とか、ってんなら話は別だけど、相当上手くやんないと『あたし』じゃなくなっちゃうから……」

「成程ねぇ……で、ここには、使い魔を探しに、ってワケか」

「そう、そうなんだよ! 流星は知らない? メッチャ強い魔物とか、精霊とかがこの辺に居るって話ー」

 瞳をキラキラさせながら縋りついて来るアイリスに、流星は押されながらも「そうねぇ……」と記憶を辿る。しばらくして、ふと何かに思い立ったようにアイリスに言った。

「あるわ、心当たり! その人は条件さえ揃えば何でも出来て、自分を信じてくれる人の願いを叶えられるの!」

「おぉ、凄いね! 伝説の魔人か何かみたい! その人はランプか何かに住んでんのかにゃ?」

「何でそうなんのよ……。そうじゃなくって、アタシよ、アタシ! 異界の神! 超ステータスじゃない?」

 流星が、胸を張って自分を示す。
 アイリスは呆気に取られてから、クスリと笑った。

「えぇ~? イリスちゃんのてのひらに乗る人が~ぁ?」

 にやにや。

「ちょ、アンタ、わざとらしくニヤニヤしてんじゃないわよ! そりゃまぁ、今は信仰が足りなくてこんなんなってるけど……でも、そんなものすぐに取り返してやるわ!」

「この世界、宗教って概念無いけどホントにぃ~?」

 にやにやにや。

「うぐっ……だ、大丈夫、何とでもなるわ! アタシ、神だもん!!」

「えぇ~、たっよりないなぁ~~」

 にやにやにやにやにや。

「ふっ……ぐぅ……アンタ、中々言うじゃない……」

 そこでアイリスは、流星いじりを中断する事にした。
 いじりがいのありそうな人間を見つけると、とりあえずいじっていじっていじり倒したくなるのはアイリスの悪い癖だ。

 アイリスの頭からぴょこんと立っていた耳が、ぺたりと伏せられた。

「……あたし、ダメッ子狼だよ」

「いいわよ。っつーか、こんな山奥でヒーヒー言いながら1人登山決行してる時点でそんなの丸分かりよ」

「魔力弱いし、実戦もさせてもらえるとは限らないし、あんまり呼んであげられないかも」

「あら、いいじゃない。サボり放題で」

「すぐ死んじゃって、迷惑かけっぱなしになるかも」

「アタシだってすぐに元の世界に帰れることになって、すぐ役立たずになっちゃうかも知れないわ」

 流星はそう言うと、しばらく考え込んで、言った。

「言い方が悪かったかしら……。そうね、アンタ、異世界の神、要らない? 役に立つわよ?」

 流星が挑戦的にアイリスを見る。
 アイリスはしばらく俯いた後、決心したように流星の眼を見据えた。

「流星、あたしは……アイリス・クルス・アルバは、魔力は弱いし、腕力も決して強くないし、頭もよくないし、20歳まで生きられるかも分からない、ひょっとしたら大人になれないまま死んじゃうかも知れない、本当にダメな狼だけど……」

「ええ」

「あたしが死ぬまでの、流星の10年間を、あたしにください」

「……プロポーズみたいね」

「もうっ、茶化さないでよ!」

 2人でクスクスと笑い合った後、どちらからともなく姿勢を正し、お互いを見つめあった。

「ねぇ、アイリス。アタシは自分の世界から、全く違うこの世界におっこちてきた、間抜けな流れ星だわ。信仰と一緒に体も能力も全部無くして、斡旋された仕事先もほっぽって出て来て、お腹減って行き倒れてるところを拾われた。……ダメな狼と間抜けな流れ星って、お似合いだと思わない?」

「……すっごく頼りないコンビになりそうだけど、確かに」

「もう、余計な事言ってからに!」

 流星がアイリスの額をぺしゃりと叩き、またひとしきり、2人で笑い合う。

「ねぇ、アタシ達、今日から友達よ」

「うん。ダメ狼とお間抜け流れ星、お似合いコンビだ~」

「ふふっ、……私、星の神      は、異郷の娘、アイリス・クルス・アルバを、この力の届く限り守護し、助け、『かけら』として、友として、愛する事を、誓うわ」

 流星が言った。
 アイリスがキョトンと聞く。

「んっ? 今、何て言ったの? それに……『かけら』?」

「最初に言ったのはアタシの本名よ。こっちの世界の人間には聞き取れないみたい。で、アタシの教徒のことを、『かけら』って呼ぶの。まぁ、『家族』とか『隣人』とか、そんな意味だと思ってくれていいわ。コレはアタシの傘下に入った者を守護する為の、誓いの言葉よ」

 「さぁ、アンタも誓いなさい」と、流星は促した。

「う、うん、そだね……。それじゃあ、そーだなー……」

 考えながら、アイリスが、誓いの言葉を紡ぎだす。

「私、気高い狼の娘アイリス・クルス・アルバは、異界の神にして我が友、流星を信じ、彼女の為に祈り、私にできる全ての力を持って彼女の助けになり、例え世界をまたごうとも……永遠に友であることを、誓うんだよ」

「あら、いいわねその、例え世界をまたごうとも、永遠に友であることを~っての。地元で信者には使えないけど、気に入ったわ、それ。アタシも、アンタの永遠の友であることを、誓うわ」

「付け足しくさい付け足しくさい」

「なんだとぉっ?」

「えへへっ」

 そして彼女達は、初夏の山の中で、ひとしきり笑い合った。
 しばらくそうしていると、道の奥の方から、黒い人影が歩いて来る……。

「イリス! ここでしたか!」

「って……母さん!? 何で!?」

「何でも何も……娘がこんな書き置きを残して突然居なくなったりしたら、普通探しに来るでしょう」

 山を登って来たのはオラリオだった。アイリスと違い、この暑い山道を黒い服で上って来て、汗一つかいていない。
 手に持った紙切れには、「思う所ありまして、旅に出ようと思います。さがさないでください。 アイリス」と、幼い文字で書いてあった。

 そんなオラリオをチラッと見て、流星はヒソヒソとアイリスに耳打ちする。

「おぉ……あれがアンタの『母さん』? えらい迫力あるじゃない、ホントにアンタの母親? 全然似てない」

「う゛っ、気にしていることを……!」

「……イリス、そちらは?」

 アイリスとヒソヒソしている流星が気になったのか、オラリオがアイリスに尋ねた。アイリスは慌てたように姿勢を正すと、紹介を始める。

「あっ、えっと、こちら今日付けであたしの使い魔兼友達になった、流星。流星、こちら、あたしの母さんの……」

「オラリオ・ウルフ・アルバです。よろしく、流星さん」

「あ、よろしくお願いします、オラリオさん。流星です」

 オラリオと流星が、人差し指と両手で握手をした。

「と、ところで母さん、仕事は……?」

「……戻ったらします」

「う、うん……」

 母親のその言葉に、てっきりオラリオは仕事を全て終えてから来たとばかり思っていたアイリスは、引きつった笑いを浮かべてしまう。
 そんなアイリスの服の裾を、流星が引っ張った。

「アンタのお母さん、「心配とかガラじゃない」なんて言ってたけど、仕事ほっぽらかしてしっかりアンタのこと探しに来てんじゃない。愛されてるわねー、アンタ」

「うぐっ……ここでまさかのニヤニヤ返し!! でも、まぁ……うん、そうなのかも」

 相変わらず表情を変えないオラリオの横顔を見ながら、「今日の晩御飯は、母さんの好きなものを出してあげよう」と、アイリスは頬を緩める。

「戻りますよ、イリス」

「はぁーい……あっ、母さん、その前にあたし、したいことがあるの」

「……何ですか?」

「えっへへぇ~……ちょっと、ね」


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