虹と星の掛け橋


 あれから、もう5年の月日が流れた。
 残り寿命5年になったアイリスはまだ死ぬ気配は無いし、流星も流星で、まだ元の世界に戻れるメドが立たない。

 今日は今日とて、アイリスの家に集まり2人でだべっているところだ。

「……にしても、始めてアンタの家来た時はビビったわ~……。アンタ、お嬢様じゃない」

「えー? 違うんだよ。ここだって特におっきい訳でも無い、フツーの社員寮だしー」

 流星は椅子からガタンと立ち上がると、思い切り机を叩いた。カップ類が、ガシャンと音を立てる。

「そうじゃないわよ! もう、何で言わないの、アンタの母親! 中央管理局長って……ここでイチバン偉い人じゃないの! アンタだって『お嬢』とか呼ばれてるし!! そんな人の娘の使い魔って……あぁ、アタシ、早まったかも」

「別に、『お嬢』とかは一部の人が面白がって言ってるだけだし、母さんだってそんな権力ある人じゃないもん。そうでもないんだよ? にしても、流星はでっかくなったよね~」

「アンタは変わんないけどね」

「うっ……背が、伸びたもん」

「背が伸びても、胸は成長しないし、童顔のままだし……意外とそのまま外見年齢が止まって、20歳過ぎても体は10歳のまま生き続けたりすんじゃないの?」

「おのれ……自分ばっかりでっかくなったからって、知ったようなことをー!!」

 あれからの流星はというと、何と、ある程度信仰を取り戻し、今ではアイリスと同じくらいの身長に戻っている。本来はもっと(20代前半の女性くらいには)大きいらしいのだが、今のところ、この大きさに落ち付いている。能力も戻りつつあるそうだ。

 5年前、あの山のふもとに、小さなほこらが出現した。
 唐突に表れた、星の模様があしらわれたそのほこらは、次第に近所の子供達の間で有名になって行ったのだと言う。

 曰く、『そのほこらに綺麗な石を供えてお祈りすると、願いが叶う』んだとか。

「……ねぇ、やっぱあのほこらってさ、あのあとアンタが作ったんじゃないの?」

「えぇ~? 知っらないんだよ~~ぉう? 何かの気のせいじゃないかにゃーー?」

「くっ……何年たってもそのニヤニヤ顔がムカつくわね、アンタは!!」

「ふぁふぇふぇふぉー、ふぃっふぁふぁふぁーふぇふぉー(やめてよー、引っ張らないでよー)」

 流星がアイリスの頬を引っ張ったりして遊んでいると、玄関からオラリオが帰って来た。片手には小さな箱を下げている。

「あ、オラリオさん、お久しぶりです」

「あら……流星さん、遊びに来ていたんですか? それならそうと言っておいて頂けないと、娘の友人が遊びに来ているところに帰って来て……私、空気読めない母親みたいじゃないですか」

「んー……空気読めなくはないけど、どうしたの母さん? 今日早かったね?」

「まぁ……仕事が少なかったのと、早く終わらせたのと、両方ですね」

「早くって……何で? 母さんいっつも、仕事全部終わっても、何があるか分かんないから定時いっぱいまで居るじゃん」

「イリス……アンタ、まさか本気で言ってる?」

「私、どこかでこの子の育て方、間違えましたかね……」

 呆れたような諦めたような目でこっちを見て来る母親と友人の視線に晒されながら、アイリスはあたあたと何かを思い出そうと試みた。

「えっ、えーっと、うーんと、母さん体調悪そうでもなかったし、えーっと……」

 そんなアイリスに、オラリオと流星が、声を揃えて言う。

「「誕生日!」」

「えっ、あっ……あぁー! そうだ、最近実技演習とかでゴタゴタしてて、すっかり忘れてたんだよ!」

 ちらっとカレンダーを見ると、確かに今日は誕生日のようだった。
 慌てた様子のアイリスに、流星が腰に手を置いて畳みかける。

「もーっ、アタシが何でわざわざ列車乗り継いでまで遊びに来てやったと思ってるかなー! オラリオさんも頑張って早く仕事終わらせて、ケーキまで買って帰って来たってのにー!!」

「わわっ、ごめんね、母さんも流星も! ホント、悪気は無くって!! そっか、誕生日かぁ~……」

 アイリスはオラリオにケーキの箱を受け取りながら、なおもあわてたように呟く。

「ケーキも、そういえばそうだよねー。ケーキ=作るものってイメージだったけど、外で買えるものだったよねー、そういえば。わぁ、母さんありがとー!」

「……ケーキ=作るものって……色々歪んでるわねぇ。まぁ、アンタ、料理だけは無駄に上手いし、当然っちゃあ当然かもね」

「無駄じゃありませんー、大事なスキルですー」

「それで浮気してんのよねー、アンタは」

「ううう浮気って、人聞きの悪いこと言わないでよ! ただ使い魔増えただけじゃん、友達100人計画じゃん!!」

 ちなみにアイリス、あれから色々と頑張って、現在では順調に使い魔を増やしている(冗談半分に、母親の部下まで使い魔に入れた程だ)。中にはアイリスの料理に味をしめ、それを交換条件に使い魔をしている者も居るほどで、流星的にはそれが気に入らないらしい。
 何も出来ないなりに人に(主に使い魔達に)頼ることを覚えて、色々と出来るようになって、今では機動隊や執務室の仕事もいくつか任されるようになっている。

「まぁ、でも……親子水入らず邪魔しちゃ悪いわよねー。アタシ、帰るわ」

「えぇっ、いいよぅ、一緒に祝ってよぅ! ケーキならほら、あたしの半分こしよー? ね? ね?」

「平気ですよ、イリス。正直言ってケーキが思ったより安かったので、明日の朝食にも回そうと思って少し多めに買ってありますから」

「わぁーい! じゃあ今から何か、簡単でおいしいもの作って来るんだよ! 待っててね、ちょっとで終わるからっ!」

 喜々として台所に駆けこむアイリスを見届けると、オラリオと流星は顔を見合わせた。

「……馬鹿だけど、明るくて優しくて……良い子じゃないですか、馬鹿だけど」

「ええ、私の、自慢の娘ですからね……馬鹿ですけど」

 オラリオと流星は、カレンダーをちらっと見る。
 今日はアイリスの誕生日じゃない。その前日だ。

「まっさか、ここまで上手く行くとは……」

「私も驚きましたよ。もう少しは疑うと思ってた……というか、思いたかったのですけどね」

 事の概要はこうである。
 仕事で忙しいオラリオと、再び南で働き出すことになった流星は、アイリスの誕生日を祝おうと思ってはいたが、スケジュールが中々開かなかった。

 それでようやく開いたのがこの、誕生日前日。
 しかし、ただ前日に祝うだけではつまらないので、アイリスに「今日が誕生日だ」というドッキリを仕掛けようとしたのであった。

「でも、いくらカレンダーがそうでも、アイツ、クラスでも結構友達居るんでしょ? いくら自分が気付かなかったからって、祝いの言葉の1つもないの、おかしいと思わないかなぁ~」

「全くです。あの子は危機感というか、警戒心というか、そういうものが滅法疎いですからね……」

「ホントに。……そういえば、オラリオさん」

「……何です?」

 流星が、オラリオに尋ねた。

「いつだったかあの子、言ってましたよ。「あたしは母さんの代わりに作られたんだから、誰かの役に立たなきゃいけない。そうしないと生まれた意味がないんだ」って。実際のとこ、どうなんですか?」

「……そうですか、あの子、そんなふうに……」

 オラリオは沈んだ瞳で、テーブルの上の自分の爪先を見つめた。

「そんなふうにね、気負わせるつもりはなかったんですよ。ただ、あの子が、縋るような目で「イリスは何のために生まれたの?」なんて聞くから、……それなら、しっかりした理由の方がいいじゃないですか。そのくらいのつもりだったんです」

「……アイツ、あれで責任感強いですし、結構自分を追い詰めるタチしてますもんねー……」

「はい……。本当は、そんな理由最初だけで、あの子はあの子でいてくれるだけで良かったんですよ。どんなに力が無くても、今日の日付も自分の誕生日もちゃんと分かってないような馬鹿でも、長く生きられなくても――あの子は、あの子です。私の、自慢の娘」

「それ、ちゃんと本人に言ってあげて下さいね。アイツはあなたの自慢の娘であると同時に、アタシの……」

「ごはんできたんだよー! ほらほら2人とも、早く食器用意して!!」

 台所から響いてくる明るい声に、流星は顔を綻ばせて呟いた。

「永遠の、友達なんですから」


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