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   ***【ヘナと幼馴染】***

「ヘナッ、大変、大事件よ! さぁ早く変身して、街を救うの!!」

「……今破った扉、ちゃんと弁償しなさいよね」

 研修旅行生らしき一団が出て行ってしばらく。お昼過ぎ頃。
 バカが入って来た。

「そもそも変身って何よ変身って、あたしにそんな設定無いわよ」

「もう、何言ってるのヘナ! あなたは魔法少女フリージング・プリティーじゃない! 今まで一緒に、数々の事件を解決して世界を混沌の海に沈めて来たのに、忘れたって言う――ハッ、まさかあなた、海底大魔王に!?」

「いやいやいや、あたしすら知らない設定盛り込まないでよ。何よフリージング・プリティーって。自分でプリティー名乗れるほど悟ってないわよあたしは。あと、事件解決して世界を混沌の海に沈めちゃダメでしょ常識的に考えて。最後に海底大魔王って何よ記憶いじられた覚え無いから大魔王さんとんだ濡れ衣じゃない」

「あっ、ちなみに、あちは魔法少女のマスコット、人型汎用大量殺戮兵器モルモッティね」

「魔法少女に付き従う大量殺戮兵器って何なの!? 魔法少女の前に自力で何とかする努力をしなさいよモルモッティ!!」

「あ、それ、無理。一応モルモッティは最初自分で戦おうとしたんだけど、異世界の超技術で作られたモルモッティ……面倒だからこっからモッティね。モッティは敵にデコピンしただけで大陸の半分を消滅させちゃったって設定だから。今この世界に残ってるのは、南と東だけね。北と西はモルモッティのせいで焦土になって、中央は海底大魔王に占拠されてる、って感じね」

「重い! マスコットの攻撃が重い!! っていうかそれ、本当にマスコットの領分なの!?」

「モッティには裏設定があって、本当は記憶を封じ込められている最強生命体アメージング・マリアが正体なんだよ。だから強くて当然の上、モッティの時は普段の2%の力しか出せないの」

「もう魔法少女要らないじゃない本格的に! というか海底大魔王も、凄いのにケンカ売ってるわね!」

「海底大魔王はモッティの腹違いの弟で、世界を憎しみながら育ったからね。ぬくぬく育った最強の姉を、刺し違えても殺す覚悟よ」

「偉くハタ迷惑な姉弟喧嘩ね!! いいじゃないジャンケンで決めたら!!」

「ヘナはひとりっこだからそんな生ぬるい事が言える! 兄弟喧嘩は戦争よ!!」

「もうどうでもいいわよその辺は! ……で? 何か用あったんじゃないの?」

「用が無きゃ来ちゃダメなの? まぁ、あるけど」

 長い長い悪ノリと無駄話のあと、ようやくあたし達は一息吐く。

 こいつはあたしの幼馴染の1人、アーチェ。フルネームが異様に(それこそ、あたしの『フローズンクラフト』が生ぬるく思えるほどに)長いから、ここでは紹介を省くけどね。アーチェでさえ愛称で、ファーストネームだけで……えっと、じゅういち……12文字?
 アーチェはキツネの化け物で、人を騙すことに至上の快感を覚える、自称トリックスター。

「で、今日は何?」

 カウンターに座って、溜息。

 ちなみにアーチェは、向かいの飲み屋の娘さん。5人兄弟の上から2番目。今日のウェイトレスは他の4人のうち誰かがやっているんだろうと思うわ。
 お昼がてらに来たのか、右手にジュースの入ったカップ、左手に彼女の店の名物、ランチバーを持ってる(『Long a Long』のランチバーってったら、それなりに有名。肉や野菜やパンなんかを、1本の長い串に刺して、持って食べられるようになってるヤツ)。

 アーチェは店の隅から踏み台を持って来ると、それに座って、あたしとカウンター越しに対面に座った。

「我らが坊ちゃん、またしても!」

「 ま た あ い つ か 」

 一気に疲労が押し寄せて来て、思わずカウンターに突っ伏する。アーチェがケラケラと笑った。

 あいつこと坊ちゃんこと、3人目の幼馴染。ここでは、ボンボン、とだけ呼んでおこうと思うわ。
 実家が金持ちで、この街の外れの屋敷に住んでる。あたし、アーチェ、そしてボンボンは、昔、3人で徒党を組んで良く大人達を困らせていたっけ……。

 でもそれも子供の頃の話。大きくなるにつれて、あたしとアーチェは実家の手伝いで忙しくなって、自由になる時間が減って、客商売の中でどんどん大人になって行った。
 逆にボンボンは、中央の学校に通いながら、あんまりこっちに来ることも無くなって、あたしとアーチェの商人組とボンボンは、段々疎遠になった。

 ……しかし奴は、大きくなるにつれ、『困ったちゃん』になって行ったのだった。

 いつもバカみたいな騒ぎを起こしては、その後始末をするのはあたしやアーチェを始めとした周囲の人間。出来ればあたしは、あいつと幼馴染の縁を切りたいと思ってる。

「で、あの馬鹿、今度は何やらかしたって?」

 聞きたくない聞きたくないお願い言わないでと思いながらそう聞くと、待ってましたとばかりにアーチェがぺらぺら喋り出す。

「えーっとねぇ、今度はアイツの飼ってた巨大ワニが逃げ出したって!」

「ほんっと……あの馬鹿、何を何匹飼ってんのよ」

「この前は虎だったし、その前はアナコンダ、更に前は人喰い植物マッペラー!」

「あー……うん。マッペラーには突っ込まないけど、本当、毎度毎度よね。で、何? 今日もあたし達が出なきゃなんないの?」

「や、そこはちゃんと、敷地内で捕まってるって。やったねヘナちゃん!」

 その瞬間あたしの背筋を走る、言いようの無い悪寒!

「……その『やったね~』のくだり、何か知らないけどゾッとするからやめてちょうだい」

「え、そう? 私は何も感じなかったけど……」

「やったねアチェちゃん」

「……。あ、うん、ゾッとした」

「ハハハ」

 笑い合って、一服(あたしが店番をしている間、カウンターにはお茶のポットが置いてある。客商売って喉が渇くのよ)。

「まぁあれで、ヘナの気を引きたくって必死なのよ。許してやんなさいって」

「はぁ? 何でそこであたしが出てくんのよ。それにあたし、頼りがいがあって一緒に店を切り盛りしてくれるよーな年上の男の人が好みなの。無い無い」

「あはっ、ヘナはブレないね~。ま、話はこんだけ。お昼だけ兄ちゃんに店番変わってもらってるから、私そろそろ行くよ。じゃ、ね」

「ん、お互い午後も乗り切りましょう」

「おーぅ」

 そして、嵐のようにやって来た幼馴染は、自分でぶち破ったドアを踏みつけて出て行った。
 ……チッ、直すまで返すんじゃなかったわね。


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