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   ***【ヘナとお使い】***

「こっんにっちわぁ~。まゆりですよ~っ!」

「あぁ、まゆまゆ、久しぶり」

 もう夕方。さっきの馬鹿に破られたドアを踏んで入って来たのは、メイド服の女の子だった。
 そして、バキッという音と共に、ドアがまっぷたつに割れる。

「あちゃー……あんた、重いんだから気を付けてよ」

「ごごごごめんなさいっ! まゆり、全然そんなつもりじゃなくって! あの、直します! 弁償もします!!」

 わたわたとドアを助け起こそうとするまゆまゆを、素早く制する。これ以上彼女にうろつかれては、被害が拡大しかねない。

「いいわよ、あたしがやっとくから。それに、最初に壊したのはアーチェだから、弁償もあいつにさせるわ」

「そんな……でも、折ったのはまゆりですし、何だか申し訳ないです……」

「店員がいいっていってんのよ、いいに決まってんじゃない」

「……。そうですよねっ、むしろラッキーですよねっ!」

 思わずズッコケ。
 この立ち直りの早さがまゆまゆの長所であり短所でもあるんだけど、……流石に早いわよねぇ。ま、いいんだけどさ、店内でウジウジ暗くされるよりは。

「で、まゆまゆ、最近見なかったけどどうしたの? メディチさん、何かあった?」

「んー……ちょっと今お屋敷、お嬢様のことでモメてるんですよー。あっ、遺産争いとか後継ぎ問題とか、そういうドロドロしたのじゃないですよ? ただちょっとした親子喧嘩ありまして、旦那様が、この問題が解決するまで、お嬢様のご趣味を禁止なされたんです」

「まゆまゆんトコのお嬢様……っていうと、メアリさんか。大変ねぇ、お宮仕えも」

「はいっ! で、ようやく問題も解決して、ご趣味再開! ってなったので、このメモにあるもの、ぜーんぶくださいっ♪」

「はいはーい……って、ヤケに多いわね」

「それはもう、今まで我慢してた分が大爆発ですから!」

 にこにことこっちを見ているまゆまゆ。

 まゆまゆは機械系の人造人間で、今、ある吸血鬼のお屋敷に仕えている、と聞いている。何でも、そのお屋敷の御隠居が、まゆまゆの制作者なんだとか。
 機械だから超重い。さっき、色んなお客さんが踏んでも蹴っても耐えてたドアがバッキリ折れたのも、そこんところが原因っぽいわ。

 で、そのお屋敷の『お嬢様』、メリー・メアリー・ザ・メディチ。  生粋のお嬢様で吸血鬼なのに、太陽の下で生きる植物に心を奪われ、大学の植物学専攻にまで進学した超のつく変人。

 現在、まゆまゆこと甍まゆりは、そのお嬢様を中心に仕えている、……ってのが、あたしの聞いた話。

 そのお嬢様が、植物を育てたり栄養剤を作ったり品種改良をする為の素材を、あたしが集めて販売してるってワケ。あたしは言わば、ご貴族様御用達のハンター? ……うーん、ちょっと違うわね。

「じゃ、1週間後までには揃えるから、そのくらいにまた取りに来て頂戴」

「はいはーい、りょっおかいしましたー!」

 まゆまゆはいつも元気だなぁ。あたしの何十倍も長生きしてる癖に。

 元気に店を飛び出したまゆまゆが、まっぷたつになったドアを、今度は四分割した。


   ***【ヘナといつもの日常】***

「さぁて……そろそろ閉店ね」

 あたしは、わざとらしくそう言って伸びをした。
 何故言ったかって? ……店内にまだ、客が残ってるからに決まってる。

 じとっとした目でそっちを見ると、特殊学校普通科の旧い制服に身を包んだ、黒いおかっぱの似合う青白い女の子が、あたしの視線を無視して南の観光ガイドブックを立ち読みしていた(何が楽しいんだか)。

「ひよっちゃん? 日和、おーい! か・ん・な・ざ・か、ひよりーーーっ!!」

「ん……」

 気だるげにこっちを見たひよっちゃんは、しばらく考えた後、「……私?」と自分を指差す。

「あんた以外に誰が居る! っつーかあんた、鉄道の地縛霊じゃなかったの!? 駅チカとは言え、何で普通に下りられるもんなの地縛霊の癖に!?」

「あー……何か、鉄道の部品持ってきたら……それに、憑いてこれた」

「詐欺じゃない! もうそれ地縛霊じゃないじゃない!!」

「だいじょーぶ……詐欺ちがーう……」

 そう言ってひよっちゃん、両手でピース。観光ガイドは、しっかり脇に挟んでる。
 ……この子と話すのって、何か疲れんのよね。

 ひよっちゃんとはこの前、ストラップとか作る材料の仕入れをする為に鉄道に乗った時知り合った。
 地縛霊で鉄道から離れられず(や、今離れてるけど)、流れで車掌をやっていたひよっちゃんと話しているうちに、何か懐かれてしまったのだ。

「私、ひよりちゃん……。今ヘナちゃんの後ろに居るの」

「いや、思いっきり目の前に居るし。いいのよ幽霊だからって、無理してキャラ作んなくても」

「くーるー……♪ きっとくるー……♪ きっとくるー……♪」

「だから怖いわよ!」

 頭を思い切り叩こうとして、スカッと空振り。
 チッ……こいつ、そういや精霊系だったわね。幽霊って何か触れそうな気ぃすんのよね。

「ヘナちゃん、今、私憑いてるのコレだから……ツッコミはコレに」

 そっと、鉄道の部品らしき歯車を渡される。
 思いっきり床に叩きつけようかと思ったけど、ダメージ凄そうだし、丁重にお返しすることにしたわ。

「ったく……早く戻んなさいよ、仕事は? 夜間特急出るんじゃないの?」

「んーんー……今日は非番の日ー……」

 「だから、」とひよっちゃんは続けた。

「ヘナちゃんの家に、突撃、突貫お泊まり会~~」

 さも始めから決まってましたとでも言うように、ひよっちゃんが拍手する。「どんどん、ぱふぱふー」とも、口で言った。

「……あぁ」

 頭が痛い。
 あたしの苦労が終わる日って、ないんだろーか……。

「日和だけにね」

「や、全然掛かってないわよ」

 今度こそあたしは、歯車をひったくって、床に叩きつけた。


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