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   ***【ヘナと店番】***

 あたし、ヘナ・フロウズンクラフトは、南にあるお土産ショップ、『氷魚』を経営している、ジークハイド・フロウズンクラフトの娘。今日も今日とて、パパの代わりに店番にいそしむ日々……。

 はぁ。

 ……いえ、ね? 不満があるって訳じゃないのよ?
 ただ、同世代の女の子達は学校に通って青春を謳歌してるっていうのに、いいのかしら。こんなことに貴重な青春を浪費して……って気分になってくんのよねぇ、お客さん来ないと。

 暇になっては立ち上がって、商品の補充とハタキかけ。朝からずーっとこの調子。そのせいで、もう商品入れてるカゴは溢れんばかりだし、天井からぶら下がってる電球の裏をはたいたって、ホコリなんて少しも出てこない。

 あーあ……もういっそ、店員判断で休業日にしちゃおうかしら。そもそも、夏の長期休暇と夏越し祭が終わった後って、観光客が例年激減するのよね。
 次の稼ぎ時の精霊前夜祭まで、この調子が続くのかしら~……。

 なんてことを取りとめなく考えていたら、店のドアの鐘が、ガランガランと音を立てた。

 ふぅ……お仕事、しますかぁっ!


   ***【ヘナと謎の3人組】***

「いらっしゃいませぇ!」

 あたしが元気に声掛けをすると、女性の2人連れが入って来た。
 片方は……獣人かな? ネコミミのある小さな女の子で、もう片方は、小さいコウモリを肩に乗せた、背の高い女の人。黒い羽が生えてるから……コウモリの獣人?

 親戚の女の子とお姉さん、って感じかしら? にしては種類がガッツリ違うっぽいわよね……学校の同級生にしては年齢に開きがあるし(せいぜい10歳と、25歳くらい?)、だからと言って他に繋がりも……。

 とにかくその2人組は店内に入って来ると、特に目的も無さそうに、フラフラと店内を見て回る。

「姐さん姐さん、色々ありますよ」

「そッスね、貝細工とか骨細工とかは、中央じゃ滅多にお目にかかれねぇッスし。しゃーねッスから、みんなにもお土産買ってってやるッスかねぇ」

 ……オイ、今、でっかい方がちっこい方に『姐さん』言ったぞ。
 良く分からない2人組だ……。年齢が逆とすると、……あ、ダメ、余計こんがらがって来たわ。そもそも、あのネコミミの女の子若く見えるの? 羽の人が老けて見えるの?(老けて……は失礼か。大人っぽく?)  中央から来たみたいだけど……うーん?

「ねーちゃん、トトも! トトも見る!!」

 ぎゃっ、女の人の肩のコウモリが喋った! 魔獣か!?
 てっきりペットだと思ったのに……というか、獣人の女の人を『ねーちゃん』って言った、ってことは……。姉弟? このお客さん達、みんな?

 いやいやいや、だったら羽の人がネコミミの子を『姐さん』なんて呼ばないだろうし……。

 よし、ちょっと整理してみましょう。
 コウモリ→羽の人:『ねーちゃん』呼び。姉弟の可能性アリ。
 羽の人→ネコミミの子:『姐さん』呼び。何らかの関係者?

 うーん……見事に分からないわね。
 大体こんな所に集団で来るのなんて、家族旅行か慰安旅行、それか仲の良い友達同士の旅行、って感じだけど……こんなに分かりにくい集団なんて、滅多に居ないわよ。

 あっ、こういうのってどうかしら?
 本当はネコミミの人はちゃんとした大人の外見をしていたんだけど、薬の実験に失敗して子供の姿に! 行く先々で事件を解決して回る、ちびっこ名探偵なのだー!

 ……無いわね。
 一瞬で正気に戻ったわよ畜生。

「姐さん、食べ物もありますよ!」

「うっへぇ……南の果物って、基本が柑橘系じゃねぇッスか。自分はいいッスよ、そっちはチャチャとトトで選んで欲しいッスー……」

「ヴィヴィさんっ、ダイョーブッ! 干物もある!!」

「おぉ、それなら話は別ッスよ。つまみに良さそうなのをチョイスするッス~」

 テンションたっけーなー。というか、やっぱネコミミさん、柑橘ダメなのね。そして酒好きなのね。

「ちょっと、店員さーん! 酒に合う乾物ってオススメねぇッスかー?」

「あっ、はーい、ただいまー!」

 あっぶな、気ぃ抜いてた。
 あたしはレジから出てお客さんに駆け寄ると、ネコミミさんの側に行く。

「えっと、お酒のおつまみですね! それでしたら売れ筋は、小魚の甘辛煮になっております。地元で獲れた小魚を、海底帝国産の昆布だしやこだわり抜いた各種調味料で煮込んであり、ご飯のお供にも最適な一品です。隠し味にトウガラシを加えピリッと辛いので、和酒だけでなくビールなどにもお勧めですよ」

 さっと気持ちを切り替え、地元の友人にも営業スマイルと宣伝トークを開始する。
 お客さん達は、感心したようにあたしの話を聞いていた。

「あとは、こちらの魚の干物。大きいですけど、時間をかけて煮込み・熟成をしっかりすることにより、骨までそのまま食べられます。そのまま食べても美味しいですけど、砕いてふりかけにしたり、野菜炒めの具材、スープの具としても十分お使いいただけます。それと、もしお酒をお飲みになるのでしたら名産の地酒が――」

 そこまで言って気付いた。

「お客様……お酒、大丈夫な年齢ですか?」

 あたしの(至極最もな)問いに、ネコミミさんの耳が、ピクリと動いた。
 コウモリと羽の人が、「やっちまったな~」みたいな顔で、あたしを見てる。……あたし、何かマズったか?

 そう思っていると、ネコミミさんがポシェットから手帳を出す。自分の住んでいる地域の管理局から、自分が生まれた時に発行される、『住民手帳』だ。
 この人の手帳は青いから、中央発行(あたしのは橙色の南発行。その他、黄色のが東、緑色のが西、ベージュのが北)。

 その、『基本情報ページ』(名前や性別、種族、職業、年齢なんかが書いてある)を開くと、ネコミミさんはあたしに付きつける。

 ヴィヴィアン・ヴェルヴェット、女。ネコマタ。中央管理局機動隊所属、……24歳。
 酒飲める年齢どころか、もう立派な大人……じゃん。

「すっすみません! えーっと、そう、地酒の話でしたね。こちらの果実酒『桃源郷』や、発泡酒の『BLUE RAIN』の他、『海の月』、『絹島』などお勧めですね。桃源郷はここから離れた果樹園の桃をじっくり熟成させた桃のワインで、『BLUE RAIN』は特別な製法をした、透き通る青が特徴のビールです。『海の月』『絹島』は和酒なのですが、『海の月』は独特のまろやかな辛みが特徴で、『絹島』は甘みの強い柔らかな舌触りの、女性に人気のお酒ですね」

「おっ、美味そうッスね。じゃあ、小魚の甘辛煮とさっきの干物、それから『桃源郷』と『BLUE RAIN』、『海の月』も頂いて行くッスよ。あとー……チャチャ、トト、何か好きなの持ってきていッスよ」

「え゛っ、そんな……悪いですよ、姐さん!」

「わーい! ヴィヴィさん、アリガトー!」

「ほらほら、チャチャもトトぐれぇ素直に喜んどくッス。上司が買ってやるっつってんスから、遠慮する方が後々面倒ッスよ?」

「じゃあ……お言葉に甘えて」

 そう言って、コウモリ2人が店の中を歩き回る。
 結局レジには、つまみ類と酒類の他、コウモリが選んだ、貝で出来たオモチャ(通称カタカタオモチャ)と、羽の人が持って来たレザーのシガレットケース、そしてお土産と思われる菓子類がいくつか上った。

「はいっ、ありがとうございま~す♪ じゃ、合計12点で、――」

「はいは~い……っと、そうそう、この変にあるオルゴール屋で、吸血コウモリの兄弟がやってる店って分かるッスか? 店主はリィリィニィって名前なんスけど」

 会計の最中に、ネコミミさんにそう聞かれた。
 吸血コウモリの一家が経営してるオルゴールの店……ってったら、何年か前にこっちに越して来た、あの家のことかな。そっか、こっちのコウモリ2匹の里帰りに、職場の上司がついてきてる、って感じ?  ……それはそれで謎だなぁ。

「ええ、ありますよ。リィリィさんのオルゴール堂。ウチの店の斜め向かいですけど……」

「うわぁ、思った以上に近かった!!」

 何故か打ちひしがれた様子のネコミミさん。

 とりあえず会計を済ませて、3人は出て行ったけど……うーん、ホント、何だったのかしら?


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