オモチャのチャチャ・チャ


 中央管理局、局長直属機動隊。その中でも小さな遊撃隊、問題児だらけの『ワイルドベリー』小隊。
 3年前のあの日から、アタシはそこに所属している。

 『ワイルドベリー』小隊というのは、色々あって解体された『ヘビイチゴ』小隊の後釜だ。隊長のネコマタ、ヴィヴィアン・ヴェルヴェットを筆頭に、5人の隊員達で構成されている。
 まずはアタシ、隷属吸血鬼のチャチャ・ヴィー・ララ。次に、怒れる眠り姫こと、呪い憑きの2重人格、イージー・ラウリル。死ねないエルフ、イェット・ビーン・メイド。壺の中の悪魔、大ムカデのライク・ライク・ライク。燃え盛る鬼火、狐尾火宴。
 以上、隊長含め6人。プラス、おまけでマスコットとして、アタシの弟、トト・ヴィー・ララ。

 力があるから野放しにしておくと面倒臭い、だからと言って人格や性質に問題があって普通に隊員としては扱えない。そういう奴らを隊長、姐さんが引き取って、上手く纏めて使ってる。
 眠り姫イーズはキレると手が付けられないし、イェットは常に軽い鬱状態。ライク・ライクは何か……なぁ? 人間の何倍もある全長の、下半身ムカデとか……いくら中身がマトモでも、女性隊員半狂乱だろ。男性職員でも半泣きだよ。火宴は、常に燃えているので、近くで一緒に仕事が出来ない(特に暑い)とこっちに回されたらしい。

 まぁ、そんなアタシ達はいつものように、休憩室でツイスターゲームに興じていた(アタシ達『ワイルドベリー』小隊以前にこの休憩室を使っていた『ヘビイチゴ』小隊の置き土産のようなもので、古今東西色々なゲーム類が置かれている)。

 アタシは上体をひねり、やっとの思いで、一番端にある青の円に手を置いた。

「トト……さっさと次だ、次ッ!」

「うっ、うん、ねーちゃん!」

 あわてたようなトトの声と、ルーレットを回すカラカラとした音が響く。

「えっと……きいろ! ライクさん、きいろっ!」

「はいです~」

 アタシの腰の横で、ザワリと何かの動く気配がする。背中を通っているライク・ライクの胴がズルリと動くのが分かった。
 ……最初はそれだけで怖気がしていたが、慣れとは怖いもので、今では「こういうもんだ」と諦めている。

 そうして動いた長いムカデの胴に付いた、無数の足のうちの1つが、アタシの腕の下の黄色にちょこんと乗る。
 そこで、アタシは力尽きて崩れ落ちた。

「やっぱり……お前のコレは、卑怯だと思う」

「ライクさんつよーい! すごーい!」

 ライク・ライクを尊敬の眼差しで見詰めるトト……。
 しっかしアタシも、何だってこんなツイスターの為に生まれて来たような体持ってる奴とツイスターなんて……いや、やめよう。考えると余計虚しくなる、やめよう。

「ありがとーですよー、トトちゃん。ライク・ライクもそう言ってもらえて感無量、身に余る光栄です~」

 ライク・ライクはウチの弟を何だと思ってんだ。王か? 神か?
 普通、9歳児に褒められたからって『感無量』とか『身に余る光栄』とか言わんだろ。

「じゃ、今日も優勝はライク・ライクかー……」

「そもそも、ライク・ライクはんおるんに、こんゲーム選ぶこと自体が、問題やったと思うよ?」

 女の形を作った炎(本当に形だけ。基本は火)が、そう言ってはんなりと微笑んだ。火宴は『京和』という島の出身なので、妙な言葉遣いで話す。たまに、意味が分からないこともある。
 その後ろで、エルフの男と、妙にキラキラした外見の奴が、早々に戦線離脱して休憩に入っていた。アイツら……いつか殺す。

 じゃあ最下位がライク・ライクにジュースを……と言おうとしたところで、休憩室の扉が開いた。

「よッス、邪魔するッスよー」

「姐さん!」

「およ、たいちょーはんやおまへんどすかー。きょーは遅かったどすなぁ」

「ま、色々あったッスよ。主に会議とか指令とか作戦会議とか命令とか」

 姐さんが、ケッとした顔をして休憩室の椅子に腰を下ろした。床に広げたツイスターの台を見て、「お、懐かしいモンやってッスね」と呟く。
 ……姐さんは、この休憩室の以前の主、『ヘビイチゴ』小隊の数少ない生き残りだ。この休憩室にある大半の物は、彼等『ヘビイチゴ』小隊が持ち込んだものだという。

「あら、隊長さんが嫌がるような『延々』系のお話があったってことは、久々の出動命令ですの?」

「そッスよー。今東で、ガキとかじーちゃんとかばーちゃんとかにーちゃんとかねーちゃんとかおっちゃんとかおばちゃんとかの行方不明が流行りまくってるってことなんで、その調査と解決ッスねー」

「一瞬サラッと流しそうになりましたけれど、それ、ほぼ老若男女全てですわよね!?」

「そッスよー。そうとも言うッスよー。ったくイージーは、こまっけーことにうるせぇッス。そんなんだからいつまで経っても女々しいッスよ、ケッ」

「女々しいって言わないで下さいませ、あたくしは女ですわーーー!!!」

 そう、イーズが叫ぶ。こっちは騒がしい方の人格のイーズで、主人格のイーズはもっと控えめで大人しい、従順で気の弱い奴だ。ただ、主人格イーズがこの小隊に居ると、一気にキャラが薄くなって自動的にフェードアウトして行きがちだが。
 床を踏みしめるたびに揺れる金色の縦ロールと、赤と白のフリルがふんだんにあしらわれたドレスがウザい。それはもう、ウザい。何て言うか、視覚的に鬱陶しい。

「隊長、話し、簡潔に」

 死にそうな声と顔で、イェットが呟いた。声もカッスカスで、目に光は無く、顔は青ざめている。体つきは本当にちゃんと食事してんのかという程細く、何というか……全体的に病的な男だ。
 コイツに出会うまでアタシは、エルフと言うのはもっと健康的で神秘的な種族だと思っていた。そんなの嘘だった。

「命令、出動、今すぐ」

 真顔で姐さんが返す。……真面目に言ってんのか冗談なのか、イマイチ分からない人だ。

「って、今すぐですかー? ライク・ライクは準備に時間がーぁ」

 大慌てで言うライク・ライクに、姐さんはでっかいリュックサックを1つ押し付けた。

「各自自分の武器と、それ1袋ありゃー十分ッスよ。さぁ出るッスよ!」

 姐さんはこういう時、非常にザックリしている。全員にリュックサックを1つずつ放り投げると、そのままスタスタと出口に向かって行ってしまう。
 アタシもトトをひっつかむと肩に乗せて、姐さんの後を追った。

「ほしてたいちょーはん、説明は歩いとる間にしてくれはんのですやろ?」

 火宴が、焦げ痕のような……というか焦げ痕そのものの足跡を残しながら、姐さんの横を歩いて行く。
 そしてその後ろを、アタシとトト、イーズ、何mもある長い体をワサワサさせながらライク・ライク、更に後ろをトボトボとイェットが付いて来る。

「んー……そッスね。ホント、今回は概要が曖昧なんスよ。東にある小さな山のふもとの村で、さっきも言った通り老若男女が無差別に消えてってるッス。原因を探ろうにも、何も収穫が無いなら良い方で、ミイラ取りがミイラに……ってケースも相当あるみてぇッスよ。今回自分達がすんのは、原因の究明と、その解決。早い話がそれだけッス」

 姐さんが、自分の分のリュックサックをブンブンと振り回しながら、ずかずかと歩いて行く。
 アタシ達はそのまま管理局を出て、鉄道で東へと向かった。

 ……まさかこれが、あの奇妙な事件の幕開けになるなんて……誰も、思っていなかっただろう。


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