猫に蛇を、蛇には猫を。


   ***【Chacha】***

 アタシの直属の上司は、ヴィヴィアンという。外見年齢10歳程度の、小さく幼い姿をしたネコマタの女性だ。
 中央管理局、局長直属機動隊、『ワイルドベリー』小隊の小隊長。更に、アタシとトトの恩人にして、頼れる姐さん。

 ヴィヴィ姐さんが、行きつけの酒屋から良い肉を貰ったと言うので、今日はヴィヴィ姐さんの部屋で焼き肉だ。仕事を早めに片付けて、トトを肩に乗せ、足早に姐さんの部屋に向かう。

「おー、チャチャ、トト、良く来たッスね~。ささ、遠慮せずに、ずずずずい~っと上がるといいッス!」

 姐さんがアタシ達を、部屋に『招いて』くれる。吸血鬼はこれがあるから面倒くさい。

 玄関を入ってすぐの場所に、1つちょこんと、写真立が置いてあった。気になったので、本能の命じるままに覗いてみる。どうやら、いわゆるひとつのツーショット写真のようだ。

「姐さん、と……誰だこりゃ」

「なになに、ねーちゃん。何か面白いモノっ!?」

 肩からトトが跳ね起きた。ええい、煩い奴め。こうしてくれるわ。

 そう思いつつトトの両羽をつまんで引っ張っていると、1回奥に引っ込んだと思った姐さんが、台所の方からひょっこり出て来た。

「チャチャ? 何か面白ぇモンでもあったッスかー?」

「あ、いや、この写真は……」

 アタシが写真立を指差すと、ヴィヴィ姐さんはあからさまに嫌なカオをして、つかつかとこちらへやって来た。そして写真立をそのまま、ぱたん、と伏せてしまう。
 ……こんなカオの姐さんを見るのは、この前間違えて、差し入れにマーマレード入りのガトーショコラを買って来てしまった時以来だ。

「えと、姐、さ……」

「チャチャは見ちゃダメッスよ、こんな男。見たら眼球が腐っちまうッス。自分の、世界でイチバン嫌いな奴ッスから」

 ふん、と苛立たしげに鼻を鳴らす姐さん。
 見ただけで眼球が腐るって……、どんだけそいつが嫌いだったんですか、姐さん。

「ヴィヴィさん、コレ誰、誰っ?」

 テメェ、トト。空気を読め。
 お前くらいの小動物、姐さんが本気出せば一飲みなんだからな?

「……リーディル・ワーズ・ドゥーレイニー。自分の元同僚ッス。トトはこんな奴になっちゃあダメッスよ~」

 言いながら、トトの額を人差し指で撫でくり回す姐さん。
 ……チッ、命拾いしやがったな。

 それにしたって、このあからさまな反応。一体、姐さんとの間に何が……。
 そう思った所で、姐さんが顔を上げる。撫でくり回されていたトトは疲れ気味だ。

「……別に、それ以上のコトは無いんスけど……そんなに気になるんスか?」

 姐さんが、仕方が無いなぁ、という表情でアタシ達を見る。
 ……しまった、カオに出てしまっていたか。

 姐さんは歳の離れた妹にするように、呆れたような苦笑で溜息をひとつ。「仕方が無いッスねぇ」とだけ呟いて、アタシ達を居間へと連れて行った。姐さんにサイズの合ってない、少し脚の高めの椅子に座る。

「それじゃあ、酒の肴に、長い長い、ありがちな昔話でも、するッスかねぇ……」

 自分で注いだ酒の水面を眺めながら、姐さんは、ぽつりぽつりと語りだした。

 戦場ではありがちな、あるひとつの、昔話を。


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